街と呼吸する設計 Nishiikemartとシーナタウンの挑戦とこれから


記事作成:織田博子(記事一覧
食を旅するイラストレーター/マンガ家。
「世界家庭料理の旅」をテーマとして、ユーラシア大陸一周半旅行に行ってきました。
池ブルックリンでは絵と食べるの担当。
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マンガ「世界を旅する母ちゃん 駒込で子育て」(しろいぶた書房)、旅のコミックエッセイ「女一匹シベリア鉄道の旅」、「女一匹シルクロードの旅」、「女一匹冬のシベリア鉄道の旅」「女一匹冬のシベリア鉄道 特製余録」「北欧!自由気ままに子連れ旅」「世界家庭料理の旅」「世界家庭料理の旅 おかわり(イースト・プレス)出版。

 


 

2019年4月、西池袋の施設「NishiikeMart」に、醸造所「SNARK LIQUIDWORKS(スナーク リキッドワークス)」が誕生しました。

豊島区を面白がる人のための冊子「MIOSK(ミオスク)」vol.2はビール特集!ということで、
NishiikeMartの誕生を楽しみに待っていた池ブルックリンメンバー。

nisiikemart外観

過去記事:新生NishiikeMart🐕に行ってきました!(2019/2/10)

藤浦一理さんによるクラフトビール醸造所を中心に、インターネットラジオ「コレデイイノダラジオ」の基地、
アートギャラリー「Nishiike Gallery」を併設しているという、不思議な建物「NishiikeMart」。

50年ほど前の西池マートの写真。活気にあふれている。

オープンから1年近くたち、さまざまな試みが芽を出し、実を結び始めてきました。

コレデイイノダラジオ「Shu-Chi-Niku-Rinn」

「新しいなにかが生まれてくる場所」を感じさせる「NishiikeMart」。
この記事では、NishiikeMartの今と、これからについてをNishiikeMartを企画・運営した株式会社シーナタウンの代表であり、店舗などの内装・デザインも担当した日神山さんに、ビールを楽しみつつ、聞いてきました。



1976年埼玉県生まれ、岡山県育ち。筑波大学芸術専門学群建築デザイン科卒業。まちづくり会社「シーナタウン」設立。「シーナと一平」「アホウドリ」「NishiikeMart」運営。

 

 

 


Contents

なんでも手作りしていた母の姿を見ていて、ものづくりが好きになった

父親は岡山県久米郡出身の出身。県北のド山奥なんです。
母親とは上京後に同じ会社で働いていて、かけおちみたいな感じで結婚して。
埼玉県大宮市に住んで、そこで僕が生まれました。

祖母が「これからはインテリアの時代だ」って言ってたのもあり
父は大宮でインテリアの修行をして、僕が1歳の時に岡山に帰って「日神山内装」を始めたんです。

父が内装をして、母がカーテンを縫って、その隣で僕が遊んでいて。
当時はお金がないのもあって、母はなんでも手作りしていました。料理やカーテン、服、絵本や教材まで。

-クリエイティブなお母さんだったんですね。

そういう姿を見ているので、僕も作るのが好きなんですよね。

小学校の時の文集を読むと、「僕は日神山内装を継ぎます」みたいなことを書いてあって。夢のない子供(笑)

とはいえ、内装屋の下請けの下請けの下請けみたいな実情も見ているので、あまり「日神山内装」を継ぐ気はなかったんですけど、継いでしまっているみたいな(笑)
恐ろしいですね。

-Nishiikemartでは、設計だけでなく、壁をはがしたり、醸造するための樽を掃除したり、そのような泥臭い作業もされていますね。ご両親のものづくりに対する姿勢が、日神山さんに受け継がれていることがわかります。

樽の掃除をする日神山さん。ビールの完成度に及ぼす大事な作業。店子さんに貸して終わり、ではなく、自ら場所を作っていく。

醸造所とラジオやギャラリー、不思議な組み合わせから生まれる「よくわからなさ」を大切にしている

-醸造所の隣に、自分たちで情報を発信する「コレデイイノダラジオ」がある。
とてもユニークな組み合わせですが、なぜラジオだったんでしょう。

これからは個々の個性が輝く時代になっていくと思います。
その個性の発信の方法として、ラジオ。

場所があって、ラジオがあって、お酒を飲みながら会えて。
出演もできるけど、顔はわからなくて声だけ。表面とかビジュアルから入らないことからの、出会いも作れるかなと。
もし動画として撮ると、めちゃくちゃ構えてしまう。
その点ラジオだと、録音していることを忘れて好きなことを言えたりもするから。
「コレデイイノダ」って言えるかなと。
たくさんの人に聞いてもらいたいというよりは、「聞いて、出演できて」の方に舵を切りたいですね。

-私、「コレデイイノダラジオ」の番組「Shu-Chi-Niku-Rinn(酒池肉輪)」が好きなんです。

Shu-Chi-Niku-Rinn(酒池肉輪)…LGBTsな方々(それに理解のある方々)をゲストにお越しいただき、お『酒』があるこの場所でお酒の話しやら、西「池」袋における話しやら、筋「肉」❤やら健康やら食に関する話題やら、もちろんお宿[Inn]シーナと一平の話題もお届けする。ゲイのつよぽんとゲイのしゅんすけがお送りする楽園番組です。

おもしろいよね。自分たちの個性を表現する場所として、ラジオ。
彼(つよぽん)はどのように自分を表現するか、ずっと考え続けてきた人で。
長崎二丁目ナイト」っていうイベントをやったんです(笑)。新宿二丁目じゃなくて。
みんなでカレーを作って、子供たちも呼んでその話をして。
当たり前にいろんな人が身近にいて、それって普通のこと」と表現したイベントでした。
「やりたいことが、できる」場所って大事だなと思います。

自分のやりたいこともできるし、誰かのやっていることにも寄り添える
イベントをしながら、奥のスペースでラジオを発信したりもできると面白いなと。

ラジオの収録風景。面白い人が来たら、その場の雰囲気で録音を始める。

「私の作るアップルパイで一日カフェやってみたいな」とか、「壁を使って個展を開いてみたいな」とか。
「なにかやってみたいな」と思っている人が、実際に行動できるフィールドが街にあるって大事だなと思います。

トガった人たち、偏った人たちをもっと表に出したい

-「シーナと一平」とNishiikeMartでは、どのような違いがありますか。

来る人がそもそも違う。
「シーナと一平」はミシンカフェからスタートして、今はお菓子工房のレンタルキッチンとして稼働しているので、手作りが好きな人や主婦、子連れが圧倒的に多い。
中が外から見えることを重視しました。「子育てしながらミシンをしているお母さん」が見える、そして人が入ってくる。

でも、NishiikeMartはもう少しトガっててもいいな、偏った人が出てくるといいなって(笑)
トキワ荘や池袋モンパルナスのアーティスト達って、めちゃくちゃ偏ってたじゃないですか。
池袋ってそういう地域だなと。

トキワ荘の人たちのスピリットを受け継いでいきたいですね。
「偏っているけど、これが好きで好きでしょうがない」が表に出るような場所になってほしい。

でも、意外だったのは、NishiikeMartも子連れの家族がたくさん入ってきてくれること。
「そうなんだ」って思いました。「ベビーカーと一緒に飲んでてもいいんだ。お父さんお母さんだって、一息つきたいよね」
っていう雰囲気が、ここにあるというか。

おしゃれでトガった年配のご夫婦とか、カッコイイおばあちゃんが一人で入ってきたりとか。
「のどが渇いたからここに来たわ」みたいな。
近所の方が飲みながらゆっくり本を読んだり、とか。

「割となんでもいいよね」な雰囲気が気に入ってます。

大家さんと対話を繰り返して、場所を作っていく

-日神山さんの仕事って、街と呼吸しているなという感じがします。
椎名町のあの雰囲気が「シーナと一平」を形作っている。「NishiikeMart」は西池袋という街に反応している感じがします。

街になじむことは大事にしています。
「シーナと一平」は、なじみすぎちゃって、よく通り過ぎられるんですよ。「それでいいな」って思います。
あと、わかりにくいんですよね。
カフェみたいだけど、宿だし、なんかいろいろ売ってたりするし。
なんだかわかりにくいようにしているのは、わりと意識してやってます。

「とんかつ食べに来たよ」って来た人がいたり(笑)

でも、その人にとっては「ここのとんかつがおいしかった」っていう記憶があるんですよね。
その記憶を、場所に宿したいという気持ちがあります。

樽を運び込む風景。人の手でこの場所が作られていることがわかります。

-大家さんの想いもこもっているとか。

僕、大家さんとめちゃくちゃしゃべるんですよ。関係を密にすることを一番大切にしてる。
そこがうまくできないと、なにもかもうまくできない。
大家さんのやりたいことと僕たちのやりたいことをうまくまぜこぜにして、形にしていくことがしたいです。
そのことで場所が活きてくるし、僕たちへの信頼感にもつながっていくのだと思います。

豊島区って空き家はいっぱいあるんだけど、「面倒くさい人に貸したくないな」と思って空き家としては出さない大家さんが多いです。
でも「信頼できる人だったら貸したいな」って思ってる。
「シーナと一平」ができたのは大きくて、大家さんも実際に見て「ああ、こういうことをやってくれる人たちなんだ」って信頼してくれる。

「西池袋ら辺に行くと、いいお酒が飲める」

-街の雰囲気や大家さんの想いを形にしていくのですね。
なぜ西池袋という街で、ビールをしようと思ったんですか?

正直、クラフトビールって流行りだし、「僕らがここでやるべきことかな?」とは思っていました。
藤浦さんが「ドリンクローカル」-地域に根差したビールづくりをしたいんだ、とおっしゃった時は「一緒にやりたいな」と思いました。

藤浦さんはあまりクラフトビールで流行っているようなことをしないんですよ(笑)
「日本でこれがおいしいって言って飲む人、何人いるんだろう」っていうくらいの絶滅危惧種みたいなビールを作っちゃったりするんですよ。
「マジで?これ、売るの?!」みたいな。
でも、だからいいかな、と。このビールを飲みに世界から来てくれる。

ビールって1か月でできるんですよね。試しで面白いこともできるし、僕らのチャレンジにも向いているな、と。
アーティストの人にラベルを書いてもらったり。
発信のつながりとしてビールを使っていきたいなと。

NishiikeMartの前には日本酒の角打「三河酒店」があるし、
隣のラーメン屋さん「麺屋KEMURI」はウィスキーの品ぞろえがすごいです。僕、めっちゃ常連なんですけど。
燻製のアテが多いんです。燻製すじことか。
マスターはウィスキーの知識が幅広くて、「こんなのほしい」っていうと出してくれたりするんです。

西池袋ら辺に行くと、いい酒が飲める」と思ってもらいたいなと。
このお店だけで完結しないで、他のお店と地域を作っていく。

組み合わせで、確変が起こる

-NishiikeMartで、狙い通りにいったところはありますか?

醸造所やラジオ局、ギャラリーを境界で区切らずに、あいまいな部分をあえて残していること。
つながっていることによって起こってくる面白さ、ハプニングが生まれることが大事だと思います。

それぞれやり方が違うので、すりあわせをしたり、うまくいかないこともある。

ものすごくちょっとした発明」って呼んでるんですけど、組み合わせのちっちゃい発明があったほうが面白いし。
外したくないなと。

-その組み合わせに日神山さんのセンスが光っていますね。
俺が組み合わせているというよりは、ただ流されてます(笑)。
流れに乗りたい。いいものは、むこうからやってきてくれる。

「シーナと一平」は、奇跡のような場所だと思ってます。確変が起きているって感じ。
俺の力というよりは、いろんな力が働いている場所だと思う。

縁と運だと思います。

-そのような場所になることを意図して設計されたんですか?

半分くらいは狙ってます。空間デザイナーとして、土間と、小上がりとかの設計や視線の高さとかは計算しています。
帰ってきた子供と、おかえりって言ったお母さんがちょうど目線が合うようになってます。
自分の縫ったカーテンが飾ってあって、僕のミシンを置いてとか。

-NishiikeMartはそのような場所になっていくでしょうか。

僕ら自身がビールを作っているわけではないんですけど、そういう才能が来てくれて一緒にできる。

いろんな才能と組み合わせていくことが大事かなと思ってます。
表現のプラットフォームを作りたいんです。
ビールのラベルにアーティストの絵、そこに物語が生まれる。
プラットフォームがあるからこそ、そのコラボが生まれる
それが作りたいな。と思ってます。

-日神山さんはアーティストに興味があるんですね。

僕は、筑波大学芸術専門学群建築デザイン科出身なんです。
アートはもともと好きです。
でも、デザイナーとアーティストって真逆の方向を向いてますよね。
誰かの作りたい形を最大限にバックアップするのがデザイン。

才能のある人はすごいうらやましい。表現を持っている人が。
こんな才能のある人たちが、どういう風に世の中に出ていったらいいんだろう。
ということを考えることが好きです。

この豊かな才能がもっと活きればいいな、と思ってます。
才能は、すなわち街の魅力なんですよ。

-新しい才能を発掘しましたか?
まだ、出し切ってない。

もうちょっと突っ込んでみたい分野があって、
椎名町に風俗産業・エロの分野のプロフェッショナルがいるんです。
AVのモザイク消しの仕事の人とか、普段は語られることがない美学がある
「人々になにを与えるか」ということを考えている、プロだなって思います。

「コレデイイノダラジオ」でそういう人を発掘していければなと思います。

ラジオの持っている匿名性で、もっと深彫りしていけるんじゃないかと思います。そこまで行きたいですね。
もっと深くやりたいな。と

このエリアにしかない、くだらない話、偏った話、それが街の価値だから。
そこに酒があるともっといいよね。って(笑)

全部が複合で面白い場所になっていくんです。
僕が持ってない何かを、誰かが出してくれる。みんなで楽しんでいければいいなと。

偏った人たちのリミッターを、ビールで外す

この街のどこかに、こんな面白い人がいる。隣で飲んでるかもしれない。ということが面白い。
ここで作ったビールで、その人のリミッターをちょっと外す(笑)そういう組み合わせを楽しみたいな。

街が持っている、許容性
少々突飛な人がいても気にしない、「いてもいいんじゃない?」って。
西池袋はそんな感じでもいいのかな。

「うちの街、こんなに面白い場所があるんだ」って地域の人に感じてもらえたら嬉しいです。
街の味を楽しむ人が増える場所を作りたいですね。

-今日はありがとうございました。

NishiikeMartを作った男たち

編集後記

日神山さんの第一印象は「まじめな好青年」でした。
内装業という、堅実でまじめな仕事をコツコツとしながら、実は内装じゃなくて街を作っている。
街にいる人や、街の雰囲気や、古い物件と、丁寧に「どんなふうになりたいの、お前は?」って対話しながら、場所を形作っていく。
できた場所は、昔から街にあったみたいに、街になじんでいます。

インタビュー中、ビールを楽しみながらお話を聞いていました。
まじめな日神山さんは、理路整然とした、インタビュー慣れした話し方で、池ブルックリンの取材に答えてくれました。

でも、「街にある才能を、あぶりだしていきたい」と言ったときの日神山さんのまなざしは強かった。
きっと藤浦さんのビールが、日神山さんのリミッターを少し外した瞬間を垣間見ました。

NishiikeMartはまだまだ未知数。
ここから、いろんな才能や、偏った人や、面白い人があぶり出されていって、
トキワ荘みたいな場所になるといいな。

(織田)